いのちの継承
−会津の食から−
鈴木真也
●食から振り返る歴史●
vol.1 「飢餓」
vol.2 生き延びるための飽くなき挑戦
vol.3 下級武士たちの 食生活
vol.4 北前船の隆盛期(1)
vol.5 北前船の隆盛期(2)
vol.6 松尾の梨
vol.7 豆腐
vol.8 鯉
vol.9 芋煮
vol.10 鮭
vol.11 鯛
vol.12 鶴
vol.13 武士料理の料理人の流れを汲む人
vol.14 鮒
vol.15 こづゆ(重)
vol.16 器
vol.17 小笠原流
vol.18 日本奥地紀行
vol.19 海鼠(なまこ)
vol.20 蕎麦(麺食)
vol.21 婚礼料理
vol.22 消えた料理
vol.23 卵
vol.24 精進料理-エゴの分布-
vol.25 幕末検見日記
vol.26 東遊雑記
vol.27 精進料理 その1
vol.28 奥会津の精進料理 
その1
vol.29 精進料理 その2
vol.30 江戸前の鮨 登場
vol.31 会津武家料理復元記
vol.32 会津の食を訪ね歩いて<栃けえ>
vol.33 山椒ゆべし
奥会津書房の出版物
電子出版
新聞掲載コラム
 
「山椒ゆべし」

vol.33

 金山町で、懐かしい風情を漂わせる菓子に出会った。「山椒ゆべし」という保存できる餅菓子である。
 これは実に不思議な形をしている。
 ネコの背のように丸めた20センチほどの細長い上部に、深い2本の筋が刻まれている。これを薄く切って、軽く火にあぶって食すのだが、切って初めて2本の筋によって刻まれた形の意味が分かる。
 蓋松の形をしていたのだ。
 金山町では古くから祝言の膳に必ずつけられたという祝いの菓子だという。物がなかった時代、白いかまぼこと併せて紅白を表現し、蓋松をかたどって祝う気持ちを込めたのである。
独特の形はそのまま引き継がれ、現在も正月には必ず用意して年始客をもてなす大切な菓子だ。
挽きたての山椒の粉を使うのが大事で、実がはじけた皮だけを乾燥させて保存しておく。12月になって農作業から開放された一家の主婦は、正月用の食の一つに山椒ゆべしを作るところが多い。
もち米とうるち米を混ぜた蒸し菓子で、寒い冬に山椒を食べてからだを暖め、風邪を引かないようにと願いも込めたことだろう。辛い山椒も、甘みのある菓子に入れると子供も喜んで食べる。先人の豊かな智恵と技の産物である。
久しぶりに囲炉裏に座って、山椒ゆべしが焼けるのを待った。
 薄く切ったゆべしは、炭であぶるとかすかにふくらんで焦げ目がつく。
 蓋松がいのちを得たようだ。
あつあつをほおばると、馥郁とした山椒の香気が広がる。
囲炉裏で焼く山椒ゆべしは、金山町の食を象徴しているかのようだ。


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