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朝日新聞福島版連載のコラムです。(H12年8月3日)

奥会津に棲む神々

伊南郷   風俗を守りいい関係に

囲炉裏には生活文化の源がある
=南会津郡伊南村白沢で

 東北の尾根、尾瀬山塊を源流とする檜枝岐川と、帝釈山脈の伏流水を集めて流れる舘岩川の合流するところ、伊南の郷は山地に稀なる美田地帯で、伊南川のほとりに開けた豊穣な河谷盆地が人々の根城である。

 かつてこの地は伊南三千石と称され、中世領主河原田氏の支配下にあって堅牢な山城、久川(ひさかわ)城の遺構にその支配力の強大さを偲ぶことができる。城下町、古町(ふるまち)は江戸時代には沼田街道の駅所として栄え、検断も置かれた交通の要衝で、今もなお美しい家並みを残し、宿場時代の面影を伝えている。

 しかし、いったん天地のサイクルが狂い、自然災害の猛威に遭遇すると、伊南郷はたちまち惨憺たる被害を蒙ってしまう。「温故知新記」「塔寺八幡長帳」(とうでらはちまんながちょう)などの伝えるところによれば、伊南川の氾濫は毎年のように発生し、風害、雪害、冷害もほぼ三年に一度の割合で発生し、流域農民の蒙るダメージは他郷の比ではなかったようである。

 災害との因果関係を指摘するものではないが、広大な奥会津の村々でも、伊南郷ほどよろずの神々を祀る習慣の地域はない。それは村の神のみならず個々の家とて同じことである。

 村が鎮守神を祀るのは当然だが、それでも事足りず山の尾根、川の渕、村の堺、峠の頂き、街道の分岐点、ありとあらゆる地に風神、雷神、災神、道祖神・・のほこらを祀り、あたかも節分のヤッカガシを家の周囲にはり巡らすのと同様に、諸神の力を借り、諸々の災いやけがれの侵入を防いでいるのである。さらにマケ(同族)や坪内の安寧を祈願する目的から、氏神や同族神を祀ることも多く、大社や本社に代参人を派遣して大麻を請け取ることもある。

 伊南郷の民家を訪れて目にするのは、どこの家でも「オメイ(茶の間)」の四隅に神棚が設けられていることで、巨大な大黒柱やえびす柱の傍らにエベス神棚、その真向かいに鎮守様の神棚、その側には歳徳神を飾る正月棚、そのほか諸神の神礼を納める地神棚がある。さらに奥座敷には仏壇と隣り合わせに高貴な伊勢の大神宮を祀る神棚があり、囲炉裏にも竈神(かまどがみ)が棲むといわれ、「サンポウコウジン(いろりにすむ火の神)」の怒りを鎮めるための諸作や、行儀作法に気を配りながら囲炉裏端の習俗を固守する。伊南郷の村人は諸々の神に守られながら、しかも神の怒りに触れぬよう、神とのいい関係を築いているのである。

【写真・文 角田伊一】

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